前回に続き、過去に仲介者を入れずにM&Aを実行した結果、数年後に対象会社を譲渡することになった事例をご紹介します。最初のM&Aと2回目のM&Aは何が違い、どうすればM&Aの成功の確率が高まるのでしょうか?

 

M&A実行とその後

M&Aのプロセスは順調に進みました。最後で最大の山場といえるのが「従業員への発表」です。K社・譲受け企業ともに、本件について丁寧に従業員に説明し、納得した上で新体制に移っていただきたいという思いが強く、近くの会議室を貸し切り、業務終了後に全員を集めて説明会を開きました。その場で直接、今回譲渡に至った経緯と今後の体制について説明をし、質疑応答の時間を設け、1時間ほどかけて説明しました。

結果、L社は現在もその譲受け企業のもとで、順調に業容を拡大しています。従業員もM&Aを理由で退職した人は皆無でした。

 

2つのM&A、違いは?

L社は2回のM&Aを経験しましたが、2つのM&Aの成否を分けた大きな要因は“仲介者の有無”です。最初のM&Aでは、経営者同士の慣れ合いの関係から、「買収監査を行う」「買収監査の検出事項を契約書に落とし込む」「従業員への発表プロセスはきちんと」といったM&A仲介者であれば基本中の基本であることを行わなかったため、M&A実行後に問題が続出することとなりました。その結果、K社はそれらの処理に苦労し、かつ肝心のM&A後の統合プロセス(PMI)が思うように進まなかったのです。もし円滑にM&A後、ビジネスをスタートできていればK社とL社のM&Aの結果も違っていたかもしれません。仲介者が間に入ることで、聞きにくいこともしっかり確認し、その後のトラブルを未然に防止することができるのです。

 

成功のためには定石通りのプロセスが重要

不動産業界においては、オーナー経営者の事業承継問題や業界再編からM&Aが活発化しており、多くの会社がM&Aの検討をする機会が増えてくると思います。譲渡・譲り受けどちらの場合も、M&Aを成功させるために重要なことは、M&Aの経験豊富な仲介者・アドバイザーにきちんと相談し、正しい進め方で進めていくことです。これはL社のような譲り受け企業だけでなく、譲渡企業にも当てはまることです。当社にご相談いただく会社の中には、他社の仲介や直接交渉で進めていたが、次のような理由で破談になってしまったという会社が少なくありません。

・交渉の初期の段階で、相手先企業より大量の資料を要求されたので、時間をかけて全て提供したが、その後に曖昧な理由で見送られてしまった。

・当初は高い株価の評価をしてもらっていたが、買収監査が終わった後に半値ほどの条件に下げられてしまった。納得がいかないのでお断りをしたが、買収監査の対応で多くの負担を強いられてしまった。

・希望する条件で譲渡することができたが、瑕疵があるとのことで、相手先企業より損害賠償を請求されている。

これらはいずれも進め方に問題があるといえます。M&A成約までのプロセスがしっかりと定まっていなかったこと、どちらか一方のペースになっていること、案件化(企業評価、企業情報の整理、事前リスクの把握など)の精度が低いこと、など様々な要因があります。

本連載では様々な事例を紹介してきました。スペースの都合上、限られた情報しかご紹介できませんでしたが、いずれの案件も当事者の様々な決断、多くの利害関係者への配慮、仲介者の工夫・ノウハウなどによって成り立っているものです。それぞれの企業が抱える事情は異なりますが、適切な進め方でしっかりと最善のプロセスを踏めば、オーナー・会社・従業員それぞれの幸せを実現することが可能です。逆に、M&Aは一つ進め方を誤ってしまうだけでも関係者が不幸なことになることがあります。

皆様方におかれましてもM&Aをご検討の際は、貴社の業界のM&Aの実績(成約件数)が豊富な専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることお勧めします。

 

※本連載は、2016年11月~2017年4月に全国賃貸住宅新聞にて連載した記事を転載したものです

AUTHOR PROFILE

業界再編部 課長

西田 賢史

一橋大学経済学部卒業後、日本M&Aセンターに入社。設備工事業、ビルメンテナンス業を中心に、建設・不動産業界を担当。毎年多数の業界の案件成約を支援している。