最終回は、過去に仲介者を入れずにM&Aを実行した結果、数年後に対象会社を譲渡することになった事例をご紹介します。

トップ同士の直接交渉で最初のM&Aを実行

K社は地域大手の不動産管理会社です。地域大手として盤石な基盤を誇っていたものの既存事業のみでの成長に限界を感じており、新たな展開として付加価値の高いサービスを模索しておられました。そのような中、K社の橋本社長(仮称)は、旧知の仲である設備工事業を営むL社の谷口社長(仮称)が、後継者不在でM&Aを検討していることを知り、興味を持ちました。L社はメンテナンス・点検を得意としていることから、K社業務の内製化を図れると考えたのです。トップ同士の直接の話し合い・交渉により、K社が谷口社長の保有するL社の全株式を買い取り、子会社化しました。

子会社化したL社をなぜ譲渡することになったのか

このM&Aを実行して5年後、橋本社長から日本M&Aセンターに連絡があり、子会社化したL社の譲渡を検討していると相談されました。理由は次の3点でした。

1.M&A時に買収監査を行っておらず、グループ化直後から想定外の債務が発覚。その対応に追われ、統合のスタートがうまくできなかった。

2.統合スタートがうまくいかなかった結果、L社のメイン取引先にK社として食い込みたいという目的も、思うような成果に結び付かなかった。

3.L社のキーマンの引退期が近づいており、その人の実務的な後継者を育てられなかった。

相乗効果が明確で、社員を大切にしてくれる相手を

K社が期待した結果は出なかったものの、L社の業績は安定していたことから、譲り受けたいという企業があるのではと考え日本M&Aセンターに相談されたそうです。早速、当社でお相手探しを進めることとなりました。譲渡を進める上で、最も時間をかけて検討したことは相手先についてです。橋本社長としては過去にグループ会社を譲渡したことはなく、対象会社の社員に対して後ろめたい気持ちを強く感じていました。そのため、「相乗効果が明確であり、大事にしてもらえる先」を最優先とし、また、社員の気持ちを考え遠隔地の会社から探索をしていくこととしました。

設備工事業界は建設・不動産業界のM&Aにおいて最も人気のある業種の一つであり、複数の譲受け希望企業が現れました。たとえば、地域補完をしたい遠隔地の設備工事業、設備部門を自社に持ち総合管理会社を目指している警備業、販売と設置・施工の一括受注を目指しているセキュリティ機器販売会社、などです。

トップ面談を経て、各社より提示された条件を元にK社の役員会で交渉先を選定することとなりました。提示金額だけでなく、想定される相乗効果・社風・経営基盤など、「L社の社員にとっても最善と思われる先」という観点で検討し、同業の設備工事会社と再度M&Aをすることに決まりました。

最初のM&Aと2回目のM&Aは何が違ったのでしょうか。どうすればM&Aの成功の確率が高まるのか、次回最終回でお伝えします。

 

※本連載は、2016年11月~2017年4月に全国賃貸住宅新聞にて連載した記事を転載したものです