前回ご紹介した10年後も成長し続ける会社にするため、M&Aを決断した40代の太田社長。M&A相手の候補先は100社にも及んだため、当社のほうで希望条件を満たす企業に優先順位をつけ、提案活動を進めていきました。そのような中で、G社に対し強い熱意を示す上場会社のH社と協議を進めていくこととしました。

 

上場会社との交渉 トップ面談は相互理解の場

H社は上場している不動産賃貸管理業の企業です。都市部に特化して事業展開を行っており、順調に業績を伸ばしていました。今後は少しずつ地域展開を進めていくことを検討していたのですが、G社が事業を営む地域はまさにH社が進出したい地域だったのです。H社の柴田社長(仮称)にG社のご紹介をしたところ、柴田社長は本件に取り組むことを即決されました。

トップ面談では主に、M&A成立後の事業運営と太田社長の譲渡理由について話し合われました。

両社の相乗効果は明確でした。H社はG社の隣接エリアにおける展開をしており、両社が一緒になることでエリアの総合展開が可能となり、人材交流・ノウハウの共有などを進め、よりよい事業運営が見込めたのです。H社は資金力もあり、広告宣伝に力を入れることもできるようになります。また、上場企業のグループになることで、採用力の強化も見込めました。

ただH社からすると、40代でまだ若い太田社長の譲渡理由は気になるものでした。譲渡を決めた背景を深く理解することは、M&Aを成功させる上で重要なポイントです。太田社長は経営者としては若い年齢であったものの、「このまま単独で経営を続けるより、会社を成長させてもらえる大手企業のグループに入った方が従業員の将来が明るくなる」という考えをお持ちでした。柴田社長も直接説明を受けたことで太田社長の譲渡理由について納得できたようです。

その後のプロセスは順調に進みました。社歴が浅いこともあり、買収監査で論点になる点もほとんどありませんでした。本件においては、最終契約の直前にG社のキーマンである幹部社員に本件を開示し、本件の同意を取り付けました。このとき柴田社長から幹部社員に直接、今回のM&Aの意義や会社の将来についてお話しいただいたことで、幹部の方もH社のグループに入ることのメリットを理解し、前向きに受け止めていただけました。結果として、トップ面談からおよそ2ヶ月で最終契約・譲渡の実行に至りました。

 

成長のためには他社との連携が不可欠

太田社長のような若い経営者が積極的にM&Aを考える時代になっています。業績が悪い・資金繰りに困っているなどという理由ではなく、しっかり利益を出している会社が中長期的な会社の発展のためにM&Aを行っています。今後、ますます競争が激化する不動産業界において、中堅・中小企業が自前で成長できる幅は限られており、他社との連携が不可欠になってきます。そのため不動産業界においても、若い経営者らを中心に、このような成長戦略を見据えたM&Aによる再編の動きは加速していくと考えています。

 

 

※本連載は、2016年11月~2017年4月に全国賃貸住宅新聞にて連載した記事を転載したものです

AUTHOR PROFILE

業界再編部 副部長

西田 賢史

一橋大学経済学部卒業。2008年日本M&Aセンター入社以降、中堅・中小企業のM&A仲介に従事。上場企業専門の部署にて、買収から子会社の売却まで幅広い資本政策を支援した後、現在は業界特化型の業界再編部にて、建設・住宅・不動産業界の責任者として多くのM&A成約に取り組む。