前回から、地域No.1の有力企業が、M&Aによる会社の譲渡を決断した事例をお伝えしています。東日本の不動産仲介会社E社の山本社長のお相手探しをするため、当社はまず希望条件に沿う数社にアプローチをしました。

相手に“惚れてもらう”トップ面談

その結果、3社が正式にE社との商談を進めたいという意向を表明しました。候補先が複数現れたことについて、日本M&Aセンターから3社に状況を説明すると、1社は断念、2社がトップ面談に進むこととなりました。このように、M&Aの過程で徐々に本気度の高いお相手に絞られていくのです。

M&Aにおいては第一回目のトップ面談が非常に重要なステップになります。お互いにとって、相手方の経営者の人となり、考え方などを直接確認する重要な機会という意味もありますが、相手に惚れてもらうという意味で非常に重要です。

当日、候補先の2社からは自社のプロフィールに加え、E社が自社グループに入った時の想定されるメリットや将来ビジョンについて提案がありました。山本社長にとっては2社とも希望に沿う会社であり、経営陣に対する印象も非常に良かったことから、どちらと交渉を進めるか悩まれました。2社からはトップ面談後も本件に対する強い意向があったため、E社譲り受けについて、諸条件を記載した趣意書を提示いただき、実質的な入札をすることとなりました。

条件面については、トップ面談と並行して2社に検討を進めていただきました。株価を算定するにあたり、2社はそれぞれ3種類の企業評価を行い、提示額を検討しました。

1.時価純資産+営業権法
2.EV/EBITDA法
3.DCF法

通常、規模の小さい中小企業の場合、2.EV/EBITDA法と3.DCF法の評価をすることは適切でないと判断される会社も多いのですが、E社は一定の規模があったこと、毎期安定した業績を上げており将来の計画が立てやすかったことから、3パターンでの企業評価を実施することになりました。

 

候補先による条件提示 社風や経営陣の雰囲気が決め手に

具体的には、2社の候補より下記の項目に関して記載した趣意書を山本社長に同時に提示することになりました。

<趣意書の主な記載項目>

・自社の紹介
・本件提携の狙い
・取引スキームと譲渡価額
・M&A実行までのスケジュール
・M&A後の経営体制と山本社長の引き継ぎ方針
・M&A後の運営方針と従業員の処遇
・秘密保持に関する記載

結果として両社の提示条件などについて大きな差はなかったため、山本社長は趣意書受領後も交渉先の選定に悩むこととなりましたが、社風や経営陣の雰囲気から従業員がより働きやすいであろうと思われるF社を優先交渉先に決定しました。

 

事業承継は会社を成長させる大きなチャンス

F社は不動産事業を広範に手掛ける大手企業であり、地域的な補完・ストックビジネスの更なる強化の観点から、E社に対し非常に強い関心を持ったのです。山本社長はF社の持つ多岐にわたるソリューションやブランド力があればE社をさらに成長させることができると強い期待感を持ちました。

E社は一定の規模があったこと、管理物件が多かったことから、買収監査はF社にとって骨の折れるものとなりましたが、その後のプロセス自体は順調に進捗し、優先交渉先の決定から3ヵ月後に、無事M&Aの成約にいたりました。

 

中堅・中小企業において事業承継は非常に難しい問題です。E社のように経営が安定している地域の有力企業でも、事業承継の問題をきっかけにM&Aを決断する会社が多くなっています。オーナー経営者にとって、事業承継のタイミングは会社を大きく成長させる最後のチャンスです。

M&Aは会社・従業員・顧客にとってよりよい事業承継の方法として認知されてきた今、さらに一歩進んで事業承継をさらなる会社の成長のチャンスととらえ、M&Aで「勝ち組企業」へとレバレッジ成長を遂げ、自身のハッピーリタイアにつなげる経営者が増えているのです。

 

 

※本連載は、2016年11月~2017年4月に全国賃貸住宅新聞にて連載した記事を転載したものです

 

AUTHOR PROFILE

業界再編部 副部長

西田 賢史

一橋大学経済学部卒業。2008年日本M&Aセンター入社以降、中堅・中小企業のM&A仲介に従事。上場企業専門の部署にて、買収から子会社の売却まで幅広い資本政策を支援した後、現在は業界特化型の業界再編部にて、建設・住宅・不動産業界の責任者として多くのM&A成約に取り組む。