前回の続きをお送りします。山田社長はどのような決断をされたのでしょうか。

 

商談の難航

良い組み合わせであり順調に進むかと思われた今回の商談ですが、基本合意の段階で、2つの理由で話が止まってしまいました。

1つは条件面。D社の提示した金額は今まで他社からは出てこなかった高い水準であったものの、山田社長の希望には届くものではありませんでした。このまま進めるかどうかを悩んでいる山田社長のM&A意欲の減退を決定付けたのは、D社からの重箱の隅をつつくような質問と膨大な資料の要求でした。D社は地場の名門企業であり、経営陣はM&Aで失敗できないというナーバスな気持ちになっており、本来前向きな話をするトップ面談の場においても、トップ面談の目的から外れた細かな質問をしてしまっていたのです。

その結果、山田社長はこれ以上進めることは難しいと判断してしまいましたが、D社にとっての初めてのM&Aであるという背景や、C社及び山田社長に対しては引き続き高い評価をしていることなどから、正式に断るのではなく、再開の可能性を残した形でのペンディングとすることを助言しました。

 

商談の再スタートへ

一度はペンディングとなった商談でしたが、D社の本件に対する意欲が下がることはなかったため、D社と当社で、M&Aに対する取り組み方や山田社長への再提案の仕方について協議をし、時間をかけながら山田社長へのアプローチをしていきました。

一方、山田社長は他の相手先探索も再度検討しましたが、自社を最大限評価してくれるところはD社であると思うようになり、商談の再開を決断されました。D社は山田社長の気持ちを汲みながら進め、一方山田社長はD社が安心して進められるように資料の準備をスピーディーに行い、両社が歩み寄ることで商談がスムーズに進むようになりました。基本合意書の締結や買収監査も短期間で終え、商談の再スタートから1カ月で株式譲渡契約の調印に至りました。

山田社長は当初からの希望により数か月の引き継ぎを経て退任。現在C社には山田社長の後任としてD社から新社長が派遣されています。C社はM&A後はD社の拠点・顧客・人などの経営資源を活用することで、20%の売上増を実現しました。一方、D社については、不動産事業の核となる会社を手に入れることができ、売上などの数字以上の意義を見出すことができました。

 

中堅・中小企業のM&Aは結婚と同じ。互いを尊重することが大切

中堅・中小企業のM&Aはよく結婚に例えられます。お互いが自己の利益を最大化させるために交渉してしまうと話はまとまりません。お互いの立場を理解・尊重しつつ、両社が一緒になることでどういう未来を実現できるか、どういう風に進めていけばトラブルが起こらずに済むのか、ということを考える必要があります。

 

※本連載は、2016年11月~2017年4月に全国賃貸住宅新聞にて連載した記事を転載したものです

AUTHOR PROFILE

業界再編部 副部長

西田 賢史

一橋大学経済学部卒業。2008年日本M&Aセンター入社以降、中堅・中小企業のM&A仲介に従事。上場企業専門の部署にて、買収から子会社の売却まで幅広い資本政策を支援した後、現在は業界特化型の業界再編部にて、建設・住宅・不動産業界の責任者として多くのM&A成約に取り組む。